パリにて、3ヶ月の在外研修中です。途中経過報告。

ジュヌビリエ国立演劇センター文化庁の研修員として、去る11月20日から2月7日までパリに滞在しております。主たる研修先はジュヌヴィリエ国立演劇センターです。ここでは、演出家及び芸術監督としての研修のために、ジュヌヴィリエの芸術監督パスカルランベール氏の新作「Répétition」の稽古場付きと、劇場運営に関するリサーチにきております。
フランスには5つの国立劇場の下に40ほどの国立演劇センターとよばれる劇場があります。作品制作を使命につくられた演劇センターでは、芸術監督を先頭に、幾人かのアソシエイトアーティストと共に、先鋭的で現代的な作品を作りまた、売っていきます。この12月には、パリ市内のあらゆる劇場で行われる国際舞台芸術祭フェスティバルドートンヌの招聘作品として、パスカルの新作が上演されました。4人の俳優の4つのモノローグで2時間半を構成する、極端にシンプルでストロングスタイルな演目です。俳優・演出・劇作家という設定で稽古場という場所で語られる各人のプライベートな言葉が、演劇における言葉と身体の新たな可能性を切り開こうとしています。現時点で作品理解がまだまだ深まっていないので、演出助手のトマ・ブーベさんにねほりはほり聞いていかねばなりません。
しかし稽古を見学していて一番うらやましく思うのは。本番3週間前からすでに劇場で美術も照明も音響も整った中で、稽古をしているということです。稽古時間は、13時から18時。私が参加下時点から、通し稽古が始まっています。1日1回通しをして、そのあと駄目だし。だめ出しは、思ったよりパスカル自身がやってみせて、そのあと議論がはじまるという感じです。これを日々繰り返し、俳優の演技は勿論、スタッフワークも日に日に変化を与えていきます。また、本番の4日前ほどから、マスコミや関係者、招待者を連日20〜50人ほどよんでの公開リハーサルがおこなわれます。これによって、宣伝ができ、実際の観客の反応を何度も確認して、作品の仕上げにとりかかります。これほどに贅沢に作り込んで提出するのかと思うと、日本の現状は、随分と貧相であわただしい。世界と互する作品を我が劇場からも排出しようと大志を抱けば、アーティスト以外の環境の部分でも、かなり手をいれて行かねば、いっこうにおいつきません。ま、民間劇場と国立劇場という時点で、比べる方がおかしいのですが、改善すべき課題が山とあるのは事実です。
こちらの劇場は、パリの北西郊外に位置し、いわゆる移民街の中に立っています。文化芸術でもって、街の治安と発展を促すことを主題としているそうです。劇場1階部分は、カフェ・レストランになっており、特に上演が無い日でも案外にぎわっています。食べてみましたが、味も結構よかった。劇研でもカフェをやろうなんていう話は、冗談のレベルではよくいっていますが、やってみたくなってきています。他には、常設の図書館が併設されていたり、ロビーや廊下部分では、現代美術の写真が展示されていたりして、常に文化芸術が市民に開かれています。パブリックリレーションとしては、他にradio labというインターネットラジオを使った情報発信をしています。フィロソフィーミーティングと呼ばれるレクチャーも実施され、哲学者や作家が登壇し、哲学などの広い見地から、舞台芸術を考え紹介する場を設けたりするそうです。これらは年4回ほどペースで実施されるそうです。またパスカル自身が「書き方」のWSを定期的にもっていたそう(最近は忙しいから実施できていない)。これは、移民街という特殊性から、でてきているワークショップです。
で、実際に街の人が見に来るかというと、やはりそこには大きな壁があるそうです。なにせパスカルは「コンテンポラリーであること」を劇場の主題としていますので、ハイアートな先端的な舞台芸術(演劇・ダンス・オペラ)から現代美術の展示というものですので、例えばヤンファーブルとか、2月に上演されたりします。これらの観客はやはりパリの中心部から人がくることが多いようです。浸透の難しさというのはあるにせよ、356席を20ステージ上演して、80%の動員率は予定されているそうなので、やはりここでも日本との差はあろうかと思います。
リールやアラス、パリ市立で拝見した作品でも概ね満席だったので、本当に人々は演劇をよく見ると思います。これらの作品については、また後日書きます。
と、まあ、ざっくりとですが、経過報告です。
2月7日に帰ります、ということをなんとなく伝えたかったのですが、ちょっと長くなりました。読んでくださった方、ありがとうございますと共にお疲れ様でした。