「ピエールとリュース」ごあいさつ

劇場30周年を記念して、弊館館主波多野茂彌の脚色による本作品を上演する運びとなりました。本年9月に劇場ディレクターに就任して間も無い私には、過分の大役を仰せつかったしだいです。波多野館主の作品を、弊館で上演するというのは、実に初めてのことだそうです。また、ノーベル文学賞作家ロマン・ロランの作品を上演している劇団も、少なくとも私は聞いた事もなければ、みたこともありません。忘れ去られた名作テキストといっても間違いないかと思います。このテキストの主題は、戦時下の純愛というものです。若い男女の悲恋をえがいています。「戦時下」「純愛」という物語としては消費去れ尽くした設定。普段の私たちからは遠い言葉遣い、パリ、フランスなど、物語を構成する主要な要素は、すべからく私からは遠いものとしてあります。とはいえ、ここで語られることは、遠い過去の歴史ではなく、私たちの現在あるいは生活にまで、地続きにつながっているものだという感覚もあります。ここで語られているテキストが、はたして私たちの生活になじむものか、それを確かめるために、今回の設定にいたしました。
舞台は、台詞はそのままに日本の一般的なリビングルームを配置しました。ある日曜日の朝からはじまります。日曜の朝にリビングルームでおこなわれるような事が展開されます。台詞は全くそのようなことは想定していませんから、動きと台詞がかみ合わないことも多々あります。さらには、台本には無い、裏の設定で俳優達は動いています。ですがどこかで、テキストと、日常をおくる日本人達が、かみあってきます。私たちが、引き受けられるテキスト、引き受けられないテキスト、そういったものが交互にあい混ざりながら物語は展開されます。ここで語られる状況が、近い将来の私たちの未来とならないことを切に願う次第です。
ピエール役とリュース役には、オーディションで選出された将来有望の若い二人です。ピエール役の八木光太郎さんは、原作のイメージ(美少年で芸術にも造形が深い少年)とは、滅茶苦茶にかけ離れていますが、緊張感の無い彼の演技は、新たなピエールの言葉を造形してくれています。そんな小太りさんの恋のお相手は、まだ学生の柳沢友里亜さんです。初々しい彼女の演技は、その幼さの中に現代のリュースとして花を添えてくれています。軍人の兄フィリップには、田中遊さん。戦争を直接語らなければならない、実にハードルの高い役を、ストイックな演技で、弛緩するピエールに緊張感を与えてくれます。父役には、大ベテランのヒデユキ・スコブルスキー平岡さんです。茶目っ気たっぷりの芸名でいらっしゃいますが、これには深い訳がございます。説明は省略いたします。原作では、厳格な父親として表現されていますが、この度はイメージを変え、さらに特殊な役割がございます。大ベテランの妙技は、是非上演でお楽しみくださいませ。
上演時間は約90分を予定しております。
皆様の御来場を、心よりおまちしております。
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